2007年10月18日木曜日

若年男性の急性多発関節炎(3)

Clinical course:
Ceftriaxone 1g/日で症状は速やかに改善。
咽頭の淋菌PCR陽性のみで、培養では捕まりませんでした。
(by Rheum-dora, courtesy of Dr. Y@ID, TMH-K)

若年男性の急性多発関節炎(2)


若年男性の急性多発関節炎(1)

Brief summary:
生来健康な20歳日本人男性、フィリピンより帰国後に発熱、咽頭痛、多発関節炎をきたした。
2007年10月1日よりフィリピンに友人4人と旅行、現地で性交渉あり。コンドームは使用したが、途中で破れたとのこと。連日riskある行動を繰り返し、4日に帰国。5日より、咽頭痛、左頚部の疼痛、39度台の発熱。近医よりロキソニン、PL顆粒処方されるも改善せず。6日より、両手の関節痛、7日には足関節にまで拡大。同日某病院ER受診、入院精査となる。ちなみに、心エコーはTTEでno vegitation、尿中淋菌、クラミジアPCRは陰性。血液培養は4セット陰性。尿培養は1セット陰性。LPは施行せず。
初診時WBC 9200, CRP 7.2、HBsAg、HCV-Ab、HIV-Ab共に陰性であった。
手の画像を別掲します。
(by Rheum-dora)

2007年9月20日木曜日

Harvard CME course: Advances in Rheumatology

 Rheum-dora@ボストンです。HarvardのContinuous Medical Education course: Advances in Rheumatologyに参加しております。
 小生は最終日午前のセッションをスキップして帰国しますが、非常に興味深い講義を受けることができました。MMFとRituximabは今後使いこなせないと話にならんな~と思いました(日本でそうするには色々問題はありますが)。

 肺疾患を合併したRA症例は全般的にあまりないようで、"Panel on RA"でDrs Weinblatt, Moreland, Ritchlinに質問したのですが、
〔東京都立K病院 M先生の質問〕 RA, Sjogrenでdiffuse ILDのある症例のManagementは?
Dr. W「...経験ある?」
Dr. M「いや...」
Dr. R「うちで一例、ILDのある症例にArava使ってるけど...」
Dr. W「でも日本からSevere lung injuryの報告があるよね」
Dr. M「うーん...」
Dr. W「...次の質問いこうか」
〔小生の質問〕 肺のNTMが治療にも関わらずSlowly progressiveなRA症例のManagementは?
Dr. W「どうしよっか?」
Dr. M「うーん...」
Dr. W「Real world questionだよね...」
Dr. R「Methotrexateかな?」
Dr. M「うーん...」
Dr. W「...次の質問、いこうか」
と、ちゃんとした解答は得られなかったのでした。

  面白かったのは、Dr.Weinblattが「Brigham WomenでRemicadeを使っている患者の平均Doseは 5mg/kg q6wkだ」「逆にClinical remissionの症例では積極的にBiologicsの間隔を空けて離脱を考えている」とコメントしていた事です。後者については会場の Rheumatologistsの間で意見が分かれていました。最近の「分子リウマチ」で、日本医大名誉教授 吉野先生が(自分の開業してからの Practiceについての話題で)「エンブレルも多くの症例で間隔を空けて中止することが可能である」とコメントしておられ、Expert's opinionとして傾聴に価すると思います。ベースにしっかりした量のMethotrexateを使用することが前提になりそうですが...

 RA治療におけるSystemic Glucocorticoidには、否定的な意見が多く聞かれました。COBRAみたいなことはあんまりしないと。欧州とのPractice patternの違いでしょうか。

 Goutのセッションでは、以前本MLでH先生にご教示いただいたAcute gout attackにKineret(attackから3日間)にも言及されており、会場でも使用経験のあるDrが1名いました(胃潰瘍+腎不全の症例)。

 Myositis のセッションでは、Hyper-CK-emiaの症例で軽度の上昇が持続していても、症状がなければ経過を追うだけで"Totally acceptable"だと演者の先生は言っておられました(U. PittsburghのDr. Oddis)。もし何か検査を追加するとすればEMGで、それがOKなら良いでしょうと。Statin内服中でCKの軽度上昇が持続してもStatinを 中止する必要はなく、上昇傾向が見られたら"Coenzyme Q10"を使用する、とも(実際米国のCardiologistはそのようにしているようです)。

 "Corticosteroid in Myositis"の以下のスライド内容は若干意見が分かれるかと思いましたが、会場から特に質問は出ませんでした。
・Begin divided dose prednisone at 60 mg daily (20 mg tid)
・Continue until serum CK falls to normal
・Consolidate to single morning dose
・Taper by 25% existing dose q 3-4 weeks to 5-10 mg daily maintainance dose
・Continue until active disease suppressed one year
・Improvement in strength lags behind CK improvement

 What's new in basic scienceのセッションでは猫も杓子もTh17, CD4+CD25+FOXP3+Tregといった昨今の風潮が正確に反映(?)されていました。日本の坂口先生のグループからの報告が多く紹介されていました。

2007年7月1日日曜日

血性関節液の鑑別

○ 外来で現在進行形の症例です。アドバイスいただけると幸いです。
【症例】 41歳、男性、スーパー鮮魚部勤務
【主訴】 左膝痛
【現病歴】
2006年末、徐々に左膝の腫脹と疼痛が出現。
近医整形外科を受診。左膝レントゲン上軟骨のすり減りあり、関節穿刺にて黄色の関節液また採血でリウマチらしさはないと言われ、鎮痛剤を処方された。
その後も左膝の腫脹は少しあったが放置していた。
2007年6月始め頃より、徐々に左膝の腫脹と疼痛が増強。
6/13、当院整形外科受診。左膝穿刺したところhttp://rheumatology.at.webry.info/200706/article_5.html
6/15、内科受診。再度左膝を穿刺した。
外傷や出血傾向のエピソードなし。
【ROS】
食欲不振あり。体重減少は半年間で5kg。もともと汗かきだが寝汗もかく。咳なし。痰なし。
【既往歴】
高血圧症があるも未治療。糖尿病なし。内服なし。
【生活歴】
機会飲酒。タバコは20本/日。健康食品摂取なし。両親との3人暮らし。独身。恋人はいない。最近風俗には行かないが、若い頃は遊んでいた。ペットなし。最近の旅行なし。
【家族歴】
父:両足が不自由(詳細不明)、母:高血圧症
悪性腫瘍なし。結核なし。
【身体所見】
体温37.2度。血圧168/118。脈拍108、整。
頭頸部・胸・腹部正常。両手指OA。左膝関節には熱感・圧痛・腫脹あり、外反変形している。両下肢筋、特に左下腿は萎縮している。両足に白癬あり。
【検査所見】
採血:WBC 11200(Neutro78%)、Hgb 12.9、Plt 42.1万。
ALP 396、CRP 1.97。ESR 57mm/h。凝固系正常
検尿:蛋白陽性
CXR:脊柱側彎あり
左膝レントゲン:関節裂隙の狭小化、外反膝
両手レントゲン:右2指MCP関節破壊あり
左膝関節液:血性。一般細菌培養陰性、抗酸菌塗抹陰性、結核菌PCR陰性、細胞診class2、抗酸菌・真菌培養検査中。
血液培養(抗酸菌も含む):検査中
【経過】
chronic
【問題点】
左膝関節炎・変形、両下肢筋萎縮、血性関節液、右2指MCP関節破壊、炎症反応、食欲不振、体重減少
【鑑別診断】
結核性関節炎、真菌性関節炎、絨毛結節性滑膜炎、シャルコー関節症
【経過】
6/22より、結核性関節炎と真菌性関節炎を疑い、INH500mg、RIF450mg、PZA2g、Flu200mgで治療開始。近日中に左膝MRI­と左膝滑膜生検を予定。
(by Y先生)

☆ 今回の血性関節液の症例についてですが、リウマチ・膠原病については全くの素人ですが、感染症の観点からはいくつか思いついたことがありますので、参考になるか分かりませんが、意見を述べさせていただきます。
慢性に経過する感染性の関節炎の鑑別診断としては、既にY先生が挙げられていますように結核性関節炎と真菌性関節炎があります。
結核性関節炎は股関節や膝関節などの荷重のかかる関節の単関節炎が多く、65歳以上が高齢者に発症しやすいようです。 臨床症状や画像所見で確定することは難しく、確定診断は細菌検査または病理にて行われます。 関節液は好中球優位な中等度の白血球の上昇と糖の低下、蛋白の上昇をきたしますが、非特異的です。 過去のreviewによれば関節液の培養の感度は79%ですが、滑膜生検の組織培養の感度は94%です(Am J Med 1976;61:277-82 )。
したがって、関節液の培養が陰性でも否定はできませんの で、組織をとることが望ましいと言えます。
関節液のPCRはデータがないのでよく分かりませんが、喀痰で塗抹陰性例における感度が50%前後であることを考えると塗抹陰性の場合はPCR陰性でも否定はできないと思います。
治療は、日本ではINH, RFP, EB, PZAの4剤が必要です。ご存知 のように結核の治療は耐性菌の出現を抑制するために感受性のある薬剤が最低2剤必要です。但し、PZAの耐性菌抑制効果は証明されていませんのでPZA+1剤という組み合わせは避けるべきです。
INH, RFP, PZAの組み合わせで、もしINHに耐性であった場合、RFP+PZAの2剤になるためRFPが耐性化する危険があります。 EBが必要かどうかはINHの自然耐性率によります。ガイドラインでは耐性率が4%以上の地域では、EBの追加が推奨されてい ます。
1997年に結核療法研究協議会はINH耐性は4%を越えた(4.4 %)と報告しています。したがって日本ではEBの追加が必要です。
真菌性関節炎についてですが、真菌の中で最も頻度が高いのはカンジダです。カンジダによる関節炎は外傷によるものでなければ血行性感染ですので、カンジダ血症のリスクとなる好中球減少症、中心静脈カテーテル、IV drug userなどが危険因子となります。危険因子が全くない人でも発症することはあるようですが、かなり稀なようです。これまで2つのケースレポート (J Bone Joint Surg Br 2003;85:734-5, Clin Rheumatol 1998;17:393-4 )がありますが、そのうちの1つでは"We believe that this is the first report of such a case. "と記載されています(Clin Rheumatol 1998;17:393-4)。
症状や画像も非特異的であり、関節液の所見も好中球優位な中等度の白血球の上昇と糖の低下、蛋白の上昇であり、非特異的です。グラム染色の感度は20%くらいですが、培養の感度はもっと良いようですが、具体的な数字は分かりませんでした。
治療については十分検証されていませんが、最も有効性が証明されているのがAmphotericin Bです。FLCZは最近のnon-albicans の増加を考えると経験的治療では少しリスクがあるように思います。MCFGは多分効くと思うのですが、臨床データがありません。
これらのことを踏まえた上での今回のケースについての私見ですが、既に予定されているようですが、滑膜生検は必須の検査 だと思います。特に結核の診断においては組織はあった方が望 ましいです(もし待てる状況であれば抗結核薬は生検後の方が良かったと思います)。また外傷、出血傾向のない患者の血性関節液は腫瘍も鑑別に挙がると思いますのでそのためにも組織は必要だと思います。
抗結核薬は継続するのであればEBを加えた方がいいです。あと体格が普通であればINHは300mg、PZAは1.5gで十分だと思いま す。
真菌については危険因子がなければ可能性は低いので抗真菌薬は中止しても良いと思います。
感染症の観点からとりあえず思いついたことは以上です。よろしければまた経過を教えて下さい。
(by N先生)

☆ すみません。ちゃんと読めていないのですが、ちゃちゃだけ入れて居眠りしようと思います。
鮮魚と書いてあるので、Mycobacterium marinumによるSeptic arthritisは どうでしょうか?
PMID: 8064742
PMID: 10402076
(by SLIHAR先生@3pm)

☆ 血性関節液をみたら 外傷(靭帯損傷、骨折等の何らかの外傷、医原性も含む)、腫瘍、出血傾向の有無でしょうか。また炎症性の関節炎で血管がEngorgeしていれば­どんな病気でもおこしていいということです。
慢性の単関節炎の鑑別 → Kellyにもまずは感染(特に結核)腫瘍(特に色素性絨毛結節性滑膜炎)、あとはOA,結晶性、まれだがRA,SpAと書かれていました。
(by K先生)

○ N先生、具体的なアドバイスをありがとうございました。 SLIHAR先生、"鮮魚"からのアプローチ勉強になりました。K先生、血性関節液と慢性単関節炎からの鑑別は私と同様の考え方です。
PubMedで"Tuberculous arthritis","Hemorrhagic synovial fluid"や"Fungal arthritis"で掛け合わせて検索しても適当な論文がHitしません。しかし、上野先生の「リウマチ膠原病診療ビジュアルテキスト」には、「血性関節液の鑑別診断」として 最後に"TB arthritis"が挙げられています。
ところで左膝のMRI検査を行いました。結果を見た整形外科医の話では、 "滑膜炎、骨・軟骨破壊を認める。腫瘍なし"とのことでした。 滑膜生検はなるべく早く行えるように努力してみます。 その前に関節液培養から抗酸菌が検出されないかなあと少し期待していますが・・・。
あと、右2指MCP関節破壊も気になりますが、TBなら手指の関節を侵すことがあるのでこれも説明がつきます。
(by Y先生)

2007年6月14日木曜日

過去の勉強会資料など(薄目で眺めて下さい)

過去に当科(Rheum-dora所属の某大学病院リウマチ科)で小生(Rheum-dora)が作成した勉強会資料をアップします.これまでGoogleグループ機能からのファイルdownloadがうまくいかない先生方が多く不評でしたが,この機会にdownloadして,容赦ないツッコミを入れてください(汗).
すでにOut-of-dateなものも見受けられます…

肺障害合併RAにおけるDMARDs
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結合組織疾患における血球貪食症候群
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生物学的製剤時代の結核
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Sjogren症候群の中枢神経病変(NMO-IgG)
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抗リン脂質抗体:Beyond Hypercoagulation
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結構,勉強会のあった時期に発表されたReviewsのパッチワークだったりするので,笑わないで下さいまし ><

「X線診断のABC」Handout

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山本先生の資料をアップしました。
見ごたえ十分です!

2007年6月13日水曜日

2007年6月10日日曜日

Colchicine-responsive periodic fever

Familial mediterranean fever(FMF)の診療経験が全くありませんので、「Colchicineに反応する典型的なAttack」と書かれても教科書ベースの知識しかないのですが、FMF以外にColchicineに反応するPeriodic feverをご存知の先生はどなたかいらっしゃいませんでしょうか?
発熱するタイプのBehcet? うーん・・・

小生が調べた範囲では、これぐらいしか見つからなかったのですが…
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(ARD articleのPDFファイルがダウンロード可能です。下のほうpp12-13をご参照ください)

よくわからない「周期的発熱」には、とりあえずColchicine、なのでしょうか。
"This case illustrates the usefulness of a therapeutic trial of colchicine monitored objectively by frequent acute phase protein measurements in patients with undiagnosed periodic fever syndromes." (上掲articleより引用)

不明熱:リウマチ科医の立場から(PowerPoint)

ウェブリンクダウンロード
リウマチ・膠原病メーリングリストにご参加の先生から「スライドやハンドアウトをダウンロードできるようにしてほしい」とのご要望を頂きましたので、試験的に『ファイルバンク』の無料サービスを使用して小生のパートをアップしました。
ご注意いただきたい点として、
・本日から7日間のみダウンロード可能。以後は消えます。
・患者さんの個人情報は特定できないように細心の注意を払っておりますが、写真につきましては良識ある取り扱いをお願いする次第です。

「聖路加リウマチ・膠原病フォーラム」大盛況でした!

6月9日 聖路加国際病院 トイスラーホールにて、「第1回聖路加リウマチ・膠原病フォーラム」が開催されました。
亀田メディカルセンター 岸本先生 「関節の診かた」、山本先生 「骨関節単純X線写真のABC」、東京医科歯科大学 高田先生 「筋炎の鑑別診断」 と、明日から(今日から?)の臨床が一変してしまうような素晴らしいLecture seriesでした。
私(Rheum-dora)は、当初「Behcet病の難治性病態にRemicadeを使用した2症例」にしようかと思ったのですが、若干会の趣旨から外れるかと思い、急遽「不明熱症例s」に変更した次第です。
O先生(総帥)から「先生短すぎるよ~」とビーコン(Wiederkommen:再提出)のご指示を頂きましたので、次回は小生のライフワーク(笑)「結合組織疾患に伴う中枢神経病変」についてお話しさせていただく予定とします。
会場設営その他につきまして、田辺製薬の方々にお世話になりました。

(Rheum-dora)

2007年6月1日金曜日

休眠から目覚めました!

本Blogは管理人(Rheum-dora)が、リウマチ・膠原病メーリングリストで議論のあった内容を手動でアップしております。管理人の多忙(いいわけ)・体調不良(これは本当)で久しく更新が止まっておりましたが、ようやく復調いたしましたので、ぼちぼち更新を再開いたします。
何卒お見捨てなくお付き合いくださいませ。

2007年2月17日土曜日

Stevens-Johnson Syndrome

26歳の男性。特にこれまで既往も、薬物アレルギーも無し。
来院10日前より湿性咳が出現し、その翌日から熱も出てきたため市販の、アセトアミノフェン、イブプ­ロフェン、ナプロキセン、Robitussinを服用。2-3日してから(来院7日前)より口腔内に水泡、潰瘍が出現し眼瞼結膜も充血して眼脂も出現。その後も­OTCのみで経過を見ていたが軽快せず、発熱も続くために救急外来受診。
所見として典型的なStevens-Johnson syndrome (SJS)で皮膚科も診断に同意しました。
問題は原因で、このケースではマイコプラズマIgMが陽性となり(胸部レントゲンでも浸潤影あり。ヘルペスは培養、P­CRともに陰性)それによるSJSではないかということになりましたが、皮膚科は同時期に服用していたNSAIDsも原因として決して否定はできないので、この­青年には一生NSAIDs、アセトアミノフェンを服用すべきではないとアドバイスしております。ちなみに今回のエピソード以前にNSAIDを服用したときは特に­問題は無かったらしいですが。チャレンジテストはできませんし、どのように対処すべきか苦慮しております。 私個人としてはマイコプラズマ感染で一元的に考えたいのですが、疾患の重症性を加味すると皮膚科の言うことももっともだなとも思います…。
皆様のご意見をお聞か­せいただければ幸甚に存じます。よろしくお願い致します。
(by H先生)

さて、この症例に関しては皮膚科の先生のおっしゃることが正しいと思います。特に アメリカでは。以前大丈夫というのは薬物アレルギーでは落とし穴と思います。
で、結局、現実的には間違って飲んでしまってアセトアミノフェンは大丈夫という日 がくるのではないでしょうか。
SJSに関しては、再投与試験は禁忌(大変になったことがあるようです)、1型ではな いのでプリック検査も皮内検査も意味がなく、LSTは陽性でも陰性でも感度/特異度と も十分低いので将来的計画に影響はありません。一応、日本ではパッチテスト!!と いうのがスタンダードにもなっているようですが少なくともアメリカでは medicolegalにはやらない方が良いですし、これの意義に関して納得のいくデータを 私個人は知りません。どなたかご存知でしたら教えてください。
(by SLIHAR先生)

貴院の皮膚科の先生の仰るとおり、薬疹の可能性も考えられると思います。
原因の追究に関してはチャレンジテストはSJSはやはりやらないほうがよさそうですね。­SLIHAR先生もご指摘の通り、パッチテストやDLST(リンパ球刺激試験)は感度特異度とも高くはなく、ともに約半数くらいの陽性率のようです。
皮膚科医としてこの症例を検討する場合、まず薬疹の可能性が高いのかを考えます。皮疹の分布(薬疹によるものだと体幹中心に、感染によるものだと四肢末梢に環状­の紅斑がでやすい傾向があります)や薬剤中止により改善してきたかなどの臨床症状を見ます。この青年の場合内服前より発熱、咳などの臨床症状があったこと、マイ­コプラズマ陽性ということよりマイコプラズマによるものが考えやすいですが、やはり薬疹の可能性は否定しきれないので、私も内服していた薬は避けてくださいと言­うと思います。ただ今後すべてのNSAIDsやアセトアミノフェンが使用できないというのも酷なので、例えばNSAIDsであればすべてのNSAIDsがだめと­いうわけではなく、構造式が違えば抗原性が違ってくるので内服できる薬はあるのではと思います。構造が異なるものを1/100量から内服してみて内服できる薬を­探すという方法をとってもいいのではと思いますが、その際にはリンパ球の活性化が落ち着いた6週以降がいいようです。また、絶対に交叉感作が起こらないとは言い­切れないので文書で承諾を得たほうがいいと思います。(アメリカでは難しいでしょうか?) NSAIDsとアセトアミノフェンではNSAIDsの方が薬疹のリスクが高いと記憶していますが(間違ってたらごめんなさい)、アセトアミノフェンもSJSを含­めた薬疹の報告が多数認められますので、難しいところですね。
以上、何の解決にもなりませんが、私の見解を述べさせていただきました。
(by Y先生)

2007年2月15日木曜日

RAに対するEtanerceptとTacrolimusの併用

Tacroは日本でしか(正確には日本とカナダ)RAには使われていないので、 データは難しいと思うのですが、以前ある大学の先生がETA/INFとTacroやブレディニンを併用したときに10%を軽く超える肺炎などの感染症があると発表されていました。
作用機序から考えていろんなところを抑えすぎるのもいけないのかとも思っていました。もちろん、併用されている施設も多いと聞いているのですが。他の施設でも感染症がこんなに高率なのでしょうか。
僕は、この話を聞いて以来は MTXの適応が飲めない人でTacroをいってだめでETAにする場合はTacroを切っています。
(SLIHAR先生)

同じTセルを抑えるという面ではCTLA4-IgのAbataceptとTNF阻害剤の併用は、Trialで静脈抗生剤が必要となるような感染症が20%ぐらい­あり米国でも禁忌になっていますよね。私はTacro+ETAまだ未使用です。
(K先生)

SLIHAR先生、K先生、皆様:
 御指摘ありがとうございます。当科でもINF/ETA+Tacroについて多くの症例経験は なく、小生の把握している限り本患者さんのみです。
同じCalcineurin拮抗薬としてCyclosporin A(CsA)がありますが、こちらのデー タをTacroに流用するのは牽強付会に過ぎるでしょうか。
"Infliximab treatment in combination with cyclosporin A in patients with severe refractory rheumatoid arthritis."
http://ard.bmj.com/cgi/content/abstract/61/9/822
(PMID:12176808)
"Cyclosporine in addition to infliximab and methotrexate in refractory rheumatoid arthritis."
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=AbstractPlus&list_uids=16396721&query_hl=5&itool=pubmed_DocSum
(PMID:16396721)
 上のARDの報告では女性 15名・男性 3名にINF+CsA(2 mg/kgで開始)が使用され ていますが、そのうち1名が肺結核を発症しています。
 ETA+CsA/Tacroではこれといった文献が見つかりませんでした。

 INFとMTX「以外の」DMARDs併用に関しては、SLIHAR先生ご紹介のNCPRでAzathioprine やLeflunomideを併用したStudyの検討(Practice Point)がなされていましたが、 http://www.nature.com/ncprheum/journal/v2/n9/full/ncprheum0271.html
CommentaryでDr. Nancy Olsenが
"It is also somewhat surprising that the 225 patients were collected from 48 hospitals, which corresponds to an average of only about five patients per hospital; this suggests that the patients treated with the alternative combinations were relatively rare compared with those taking the methotrexate combination."
と述べています。
MTXがKey drugであることは揺らぎませんが、何らかの理由でMTXが 使用できなくなった患者さんについては突然NEE治療の門戸が狭くなってしまうよう です。
(Rheum-dora)

63歳男性 「つまむと痛い」

皆様
先日より困っているが症例が有りまして、皆様のご意見をうかがえればと存じます。 長い記述のうえに英語ですみません。膠原病関連疾患なのかどうか見当がつきません。どうぞよろしくお願い申し上げます。

Case: CC: 63 y/o fisherman presented with pinching induced pain all over his body below the neck.
Pt was able to catch shrimp boarding on boat until October 2006, when he developed neck and shoulder stiffness and had to be off from work. The stiffness over upper trunk turned more like a pain when triceps and shoulder muscles got pinched. He felt residual pain for 1-2 min off the pressure. He also felt dullness over low back and blt lower extremities. The dull pain is constant, worse on lying in LEs. The stiffness of upper trunk and low back- pelvic area became unbearable in 30 min when he repeatedly loaded bucket of shrimp on to the boat. Pt experienced spontaneous lightening pain in arms and legs everyday. He has no abnormal sensation above his neck.
Pt sought medical attention in several specialties at different hospitals since October. His lumber MRI showed L5/S1 stenosis. The dullness on low back appeared slightly improved with the local injection for 'spinal stenosis' at orthopedics, but the pinch induced pain became worse over time and spread throughout upper and lower trunk. He experienced pain even with the pressure when he rolls over in the bed and his sleep got disturbed.
His past medical hx is significant for untreated hypertension, and COPD dxd a year ago when he had SOB on exertion last winter. He has no sputum or cough, and no sig changes of DOE since last year. His left visual acuity had been weak since he had contracted 'measles' as child and was completely lost since retinal detachment in his 30s.
He takes no medication, no OTC meds or herbal medicine. No known drug allergies, He used to smoke 60pack year and quit 2 years ago. Occasionally drinks beer and no illicit drug use. No recent travel, and no pets or exposure to animal before this presentation. No transfusion. He lives with his wife and 2 grown children. His family hx is noncontributory.
ROS is negative for weight loss, night sweats, skin rash, visual changes, GI or GU sx.
Pt was mildly hypertensive but otherwise showed normal vital signs, and afebrile. He appeared developed and well appearing. Lt eye showed fixed pupil with no reactive to light. Remainder of HEENT, lung heart, abdomen, extremity, and skin exams were unremarkable. Neuro exam: CN2-12 intact and reflex are all normal. Sensation: significant for pinch induced pain below neck. Vibratory, cold temperature, or proprioception intact. Light touch sensation was mildly diminished in both feet. Motor 5/5 throughout. Coordination, Romberg and gait were all intact.
Given the distribution of neck thru shoulder girdle and low back stiffness, we tried prednisone 15mg qd for 5 days, assuming he might have PMR. Steroid was ineffective and was discontinued.
Lab: WBC 10,000 (N 75%, L 10%, E 8 %) Hb14.5 Plt nl LFT nl LDH nl BUN/Cr 20/1.2 (baseline) ESR 28/hr CRP 1.8mg/dl U/A: protein 1+ no casts
CXR nl
He remained symptomatic and the trial of tricyclic antidepressant was not promising. Pt lives far at the sea shore and requests inpatient w/u.
Additional blood work: ANA neg, RF neg, SPEP neg, ANCA neg, VDRL less than 1, TPHA x 160 (<80), Imaging studies at outside hospitals was reportedly all negative: - MRI of head, chest, abdomen, lumbar spine, pelvis - Nerve conduction test. - cystoscopy # Disabling pinching sensation (myalgia, neuralgia??) #mild eosinophilia #Dyspnea of exertion (smoker) #+syphilis antigen #mild elevation of inflammatory markers #L4/5 spinal stenosis My DDx on admission were only tabes dorsalis and eosinophilic myalgia syndrome. Pt was admitted yesterday and LP revealed 5/3 cell and normal protein/glucose. CSF VDRL is pending. Muscle and neck MRI were normal. Could this still be Tabes dorsalis (despite no cells in CSF, no deep sensory deficit)? What other differential dx would account for this presentation?
(K先生)

 外来・病棟と駆け廻った後に書類を書きながら拝読しましたので、とんでもない勘 違いをしている可能性がありますが、"Small-fiber neuropathy"として鑑別を考える のはいかがでしょうか?
http://www.thecni.org/reviews/13-2-p07-treihaft.htm
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12210380&dopt=Abstract
年齢・社会的にどうかとも思いますが、小生なら一応HIV statusは調べるかもしれ ません。  また、リウマチ性疾患の範疇で"Small-fiver neuropathy"を来たす疾患として、 Sjogren症候群は考えるかもしれません。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=12210380&dopt=Abstract
 合致しない点として、発症がDistalからではなく、Neck and Shoulderと、PMRを思 わせるような比較的体幹部から起きていることが挙げられます。(神経内科の先生 方、Followよろしくお願いします ^^;)  Mild eosinophiliaに着目すると、漁の時(に限らず)思わぬものを食べていない か(残念ながら知識不足で具体的な寄生虫の名前が浮かびません)が気になります。
 取り急ぎお返事差し上げました。書類に戻ります。
(Rheum-dora)

 こんばんは。
 K先生の症例呈示を拝見して、ある患者さんのことを思い出しました。
35歳の女性で、慢性に経過した背部痛と両上肢痛を主訴に受診されました。 CXRでのBHLが契機となり、サルコイドミオパチー(chronic type)と診断した症例です。
私の鑑別診断は、梅毒、サルコイドーシス、結核、真菌感染症、HIV感染症、血管炎症候群、 lymphomaそして甲状腺疾患です。 また、Rheum-dora先生がおっしゃるように好酸球増多に着目するのも重要だと思います。
血清Ca、ACE、針筋電図、筋造影MRIそして筋生検を計画したいです。
(Y先生)

Rheum-dora先生、Y先生ご意見ありがとうございました。お二人とも考え方がしっかりされていて、とても勉強になりました。
ケースの簡単なまとめですが、63才漁師さん男性、数ヶ月間のprogressive disabling shoulder/trunk/low back stiffnessとepisodic ligntening pain、神経学的所見はgrasp and pressure induced hyperesthesia of affected area以外所見なく、検査値では軽度の炎症と軽度好酸球増多、TPHA 陽性、CSF 大きな異常なしでした。前回きちんと述べていませんで したが、LDH nl, CPK nl, TSH nl, Calcium nl, 他院でのEGD, Colonogscopy negative, CT of chest and abdomen negativeでした。
追加検査結果では、HIV negative, CSF-VDRL negative, Nerve conduction test negative, MRI of quadriceps and cervical spine unremarkableでした。患者さんはtricyclic からcarbamazepineに変更されて2泊3日の検査入院後一度帰宅となりまし た。
神経内科の先生方もとても診断に苦慮されておられました。Current Dianosisという内科教科書の筆頭著者でもありNEJMのCPSでもおなじみのUCSFのティアニー先生にご意見を伺うことができたので、皆様にお伝えし­たいと存じます。長いのでお時間をとりますこと、お詫びいたします。

A very rare condition I thought of immediately was Stiff-man Syndrome (some call it Stiff-person Syndrome for political correctness). This is thought to be an auto-immune syndrome, related possibly to type I diabetes and other immune conditions. The early symptoms are just like your patient's; I think you can find details on the internet. The EMG shows characteristic findings which Valium abolishes, unlike any other disease. Antibodies to glutamic-acid decarboxylase are found in most cases; sensory and motor neurological examinations are normal however. It would be an early case, and the disease is slowly progressive; you might be able to help the patient with high-dose benzodiazepines or baclofen. This is so rare, however.
One always thinks of Ciguatera toxin poisining in a fisherman with neurological symptoms, but they are mostly sensory. The idea of eosinophilic fasciitis came to my mine. It usually causes more obvious non-pitting edema in the affected areas; a deep fascial biopsy is necessary for diagnosis. I don't think it is eosinophilia-myalgia syndrome. If I am not mistaken, this is caused by tryptophan in a food supplement, and has not been reported for a number of years.
Sometimes people keep supplements for long times in their homes, so you might ask him about that. Trichinosis causes severe myalgias with eosinophilia, but I don't think you have it in Japan; an antibody test confirms. One of my patients had it: he was a hunter, and ate undercooked meat of a bear. You could see if your patient has this hobby, and you would know better than I if it is found in Japan.
Some small-fiber neuropathies may cause similar symptoms to your patient's with a normal nerve-conduction test. In such individuals, repeated and careful neurological examinations, especially of sensation and strength, are useful. The lightning nature of the pains make me wonder about that.
It is interesting that he had a peripheral treponemal test positive, but maybe it is falsely so (compatible with autoimmune disease, as Mitsuyo knows well). However, a negative CSF VDRL rules out tabes; you are so smart to think of it! I once had a patient with these lightning pains and tabes: very dramatic. A small-fiber neuropathy can be paraneoplastic, and indeed, the entire picture concerns me for this.
I learned from the great Dr. Robert Fishman at UCSF years ago that unexplained neuromuscular syndromes should raise the question of a hidden malignancy. Your patient is in the correct age range for that, and you might seek it with endoscopy and abdominal-pelvic CT scans.
I agree that PMR is excluded by failure to respond to steroids. Most true myopathies, such as polymyositis, have easily demonstrated weakness, but your Hokkaido fisherman may be a strong man in whom loss of strength could be difficult to detect. Endocrine myopathies are painless; inflammatory myopathies have pain much of the time. The CK is not always elevated. Sarcoidosis is an often overlooked disorder capable of causing myopathy, and is common in Japan as I need not tell you.What does one do?
I would proceed as follows: 1. a deep muscle biopsy to include fascia, in an affected area 2. repeat of the muscle enzymes 3. an EMG, positive in 85% of myopathic processes 4. a CT of the type I mentioned 5. the antibodies mentioned for Stiff-man (person) Syndrome 6. a panel of autoantibodies, to include anti-parietal cell, anti-thyroglobulin, anti-microsomal; obvously SLE is in the mix, so ANA is necessary, but I think you have already performed that 7. consider a therapeutic trial of baclofen while awaiting the results 8. hold off on steroids unless everything is negative, and then consider a higher dose, say 40 mg. of prednisone daily 9. trichinella antibodies 10. and as always in the end, revisit the history 11. serum LDH, as lymphoma can do strange things clinically.

 また神経内科の先生方と相談しながら検査と経過を見ることにいたします。その後新たな展開がありましたらご報告申し上げます。
(K先生)

 Dr. Tierneyの鑑別診断としては、
1:Stiff-person syndrome 2:シガテラ中毒 3:好酸球性筋膜炎 4:Eosinophilia-myalgia syndrome 5:Trichinosis(旋毛虫症) 6:Small-fiber neuropathies 6-1:Paraneoplastic syndrome 7:Tabes dorsalis 8:Myopathies 9:サルコイドーシス
が挙げられているようです。やっぱりVascular, Infection...と順に考えていかれ たのでしょうか?

 今更のような質問で恐縮ですが、「つまむと痛い」というのは皮下をすこしつまん だだけでも痛いのでしょうか?それとも筋肉を大きくつかむようなGraspで痛みが誘 発されるのでしょうか?  最初、「筋肉ではなく神経のイベントかな?」と思った理由は、「つまむ」という 表現でなにか浅層のイベント、つまり皮膚やその部分の支配神経の問題をイメージし たからです。すこし早とちりだったかもしれません。また、「首から下すべて」との ことですが、Segmentalな要素はありませんでしたでしょうか?(Dorsal-root ganglionopathyを念頭に置いています)それとも神経学的なSegmentの要素はなく、 「体全体が痛い」としか表現できない局在(?)だったのでしょうか。
 Dr. Tierneyが「MyopathyでもCK上がらないことあるよ」とこっそり書いているの が興味深いです。
(Rheum-dora)

早速のご意見を頂きありがとうございます。病歴の記載がわかりにくくて申し訳ありませんでした。 患者さんは「つまむと痛い」「肩がこったような重だるい感じ」という表現をされます。「つまんで痛い」ですが、基本的には腹部の筋層よりも浅いレベルで皮膚や皮­下脂肪をつまんでも痛みが出ますし、TricepsやDeotoidの筋肉をつかんでも痛みが出ます。筋肉痛なのかneuropathyなのかよくわからないの­ですが、分布はproximal優位です。皮下組織や筋肉をつまんで圧を加えたと同時に痛みが出るのはupper chest and shoulder areaですが、それより下は「つまんだ時の痛みよりもその後離してから1.2分痛みがジーンと残る」といいます。「腰から大腿にかけて重だるい痛み」が、漁業­の仕事をしていても出てきて辛くて仕事ができないし、横になって寝ていると下になった側に痛みと重だるい凝った違和感が出てきて眠れない、そうです。その他、体­のあちこち(体幹、両下肢)にびりっとした電撃痛が瞬間的にはしる、といいます。
膠原病リウマチ内科にご紹介いただくケースは難しいですね。またご意見をいただけますと幸いです。よろしくお願い申し上げます。
(K先生)

2007年1月20日土曜日

成人Still病(ASD/AOSD)

(「高フェリチン血症の症例」より承前)
M先生、成人スティルのご経験がなくても先生がしっかりとした臨床医であるので、 病状もよくなっていて素晴らしいと思います。成人スティルはなんだかんだ言っても 珍しい病気で、アメリカでの大家のCush先生も年に1-2人新患を見る程度といって いました。
一通り読むなら Ann Rheum Dis 2006;65:564 572. がよいと思います。基準も、山口先生、Cush, Fautelと三つ並んで比較してあります し、各臓器の症状なども記述されています。 皮疹に関しては 治療と臨床 2002 1432 のものが日本人ですから見やすいので研修医の教育には僕は使っています。
皮疹は典型的には掻痒感のないものですが、発症当所は掻痒感がある ものもも珍しくありませんし、1日中出ていることもあり発熱とともに少し悪化と言 うこともあります。しかし徐々に典型的な皮疹になってくることがありますのであき らめずに観察することが必要と思います。僕の印象としては再発時のほうが典型的な 皮疹が多いです。
・ASDを診断するにあたり、何をもって確定といえるか? に関しては、基準があるぐらいですから結局はこれを参考にしながら除外診断となる と思います。Rheum-dora先生も書かれていましたが、基準を満たしても満たさなくても診断を除外も確定は出来ないのはSLEと同じです。でも、100%確定しないと治療が出来ないわけではないので、治療が禁忌となるような別の疾患でないことをある程度確定してからは診断的治療と言うことも考えてよいと思います。ということで、今回 NSAIDを開始されたことは的確な判断だったと思います。以前、アメリカ時代にNSAID 恐怖症的なチームがいつまでもNSAIDはじめずに心外膜炎になった症例を見たことがあります。
・NSAIDはどのくらいの期間使用するのか?
誰か答えをご存知でしょうか?CRPが上がっていますので、これと臨床症状を見て、となると思います。炎症が消えて症状がよくなってから僕はEBMではありませんがTaperします。
・ステロイド導入(もしくは他薬剤)のタイミングは?
NSAIDが無効または禁忌の場合ではないでしょうか。発熱、関節症状だけならNSAID開始し少なくとも数日は様子を見て。改善傾向なら7-10日間はどれくらいよくな るかを見ています。1つでダメでもある程度効果があればNSAID変更もします。ナイ キサンが効かなければ、僕はインダシンはあまり使わないのであきらめることも多いです。皆さん、どうですか?もちろん、NSAIDつかっても悪くなるようならあまり長 く待つのはお勧めしません。
・ASDを治療するに当たり注意する点は?
サルコイドーシス同様にnever be sureじゃないでしょうか。特に診断当初はある程度ほかの疾患も常に疑いながら、注意深くです。NSAIDやステロイドはAOSDじゃなく ても一時的に症状がよくなることはありますので。あと、ステロイドをあまりだらだら使いすぎないことだと思います。もちろん必要な人はいますが、手首の関節症状だけとかなら関節内注射をお勧めします。関節炎だけのために長々と経口ステロイドが減らせないと言うのは、他の臓器に問題が起こりにくい疾患としては避けたい所です。
(by SLIHAR先生)

AOSDはIL-1 antagonist anakinraが著効するのですが日本にないのが本当に悩ましいです。
☆ ASAs and/or NSAIDs
1/4ぐらいは効くといわれています。これの根拠となったのがカナダから62例のCohortです。Pouchot et al. Medicine 1991 どのNSAIDsなのか記載はありません。また反応した群は予後がいいという記載もありました。 ただASA/NSAIDsに関してはsalicylateのレベルを15-25mg/dLを超えないよう肝機能をみながらやりますがそれがすぐにできない日本ではそのようなDoseは使えません。たとえばアスピリンにして3-4gは使いますので。日本のレポートでもたしか3gぐらいまで使ったのはあったかと思います。
Taperについては私ももしSteroidが必要になるようであればステロイドを先にTaperしています。Steroid Sparingとしての要素もある­症例は経験されると思います。もちろんこのときも炎症反応(フェリチン>ESR, CRP)を診ながら、患者さんの訴えも聞きながらです。ときに線維筋痛症を合併していることもあるので注意してください。
☆ Steroids
ステロイドについてはSLIHAR先生ご指摘のようにNSAIDsが効かない群ということでしょうか。私は生命を脅かすものがなければPSL 0.5mg/kgで始めたり­しますが効かないことも多く経験します。文献的には1/3が60mg/dayぐらいの量が必要になるということです。実際は数日0.5mg/kgでやって熱が下 がらなければ1mg/kgに増量することもあります。 あと一般的に予後が悪い因子として、Root Joint(肩とか股関節)、早期から多関節炎なものに関しては確かに関節の症状以外にも熱の下がりとかも含め0.5mg/kgでは効かない症例が多いと思います。
副作用も考え、PSLがなかなかTaperできない場合、MTXを少量(2.5mg)をくわえてもいいかもしれません。うまくいった場合、順番としてはTaperする順位はPSL>MTX>NSAIDsでしょうか。
☆ 治療で注意する点:
・原疾患の悪化 およびTTP, HPSなどの合併
・薬の副作用
・線維筋痛症の合併
☆ 皮疹について:
前胸部などの躯幹、四肢末端ではなく比較的近位の四肢というのはみなさんご存じだとは思いますが。当院に赴任し2例Urticarial vasculitisで­はと思うような24時間消退しないUrticariaのAOSDを経験しました。ともに四肢末端、足背、手背にもでていました。いわゆる典型ではないですが 、Urticariaの場合末梢にもでるのではと推測しています。掻痒はあることが多いので、あとは見た目とBiopsyですが。
(by K先生)

高フェリチン血症の症例

○ 現在ASDではないかと思われる患者さんを担当しています。 症例経験がないので皆様にご意見いただければと思います。

簡単に症例を提示しますと
患者:74歳女性
主訴:発熱、関節痛
現病歴:生来健康。ADL自立。病院通院歴なし(内服もなし)。
2006年の12月初旬より倦怠感、食欲低下、微熱認め、 その後掻痒感を伴う皮疹が出現(詳細不明)し、近医にて抗ヒスタミン薬などを処方 される。
12月中旬より咽頭痛出現、その後発熱(38-39℃)や両膝関節痛認め、 徐々に両下腿浮腫もみられたため某外科病院に膝関節炎ということで入院。 膝関節液の培養は陰性。クラリス→セファメジン→メロペン投与するも熱、炎症反応 あまり改善せず(なぜか)ソルコーテフ500mg投与、一旦解熱するも原因不明という ことで 12/28当院紹介入院となりました。
(年末ぎりぎりで転院されてこられしかもステロイドが投与され ぐちゃぐちゃの状態で送られてきたという感じです・・・。)
当院受診時は、38℃、SpO2 93%(室内気)、sBP140台、HR90bpm・整 頚部・右肩の圧痛、両膝の圧痛・発赤腫脹、両下腿浮腫、頚部から前胸部にかけての 紅斑を認めました。
データーとしては
WBC 27340/ul(Band 7%, Seg 90%)、Hb 12.0 g/dl,Hct 37.30%,Plt 21.6万,
PT-INR 0.97, APTT 23.5, Fib 656 mg/dl, D-dimer 7.2 ug/ml
ESR 97mm/hr, CRP 15.54, AST/ALT 23/16 IU, BUN/Cr 17/0.6mg/dl, TSH 1.15, FT4 1.41, MMP-3 180.6ng/ml, RF 2.2IU/ml, C3 123mg/dl, C4 38mg/dl, CH50 42.8U/ml, HbA1C 6.7 といった状況でした。
レントゲン上 軽度 CP angleはdullになっていました(胸水貯留がCTで確認)。
年末であまり検査もできずとりあえず各種培養採取し、 MEPM投与し経過をみていました。 日中は36~37℃台なのですが、夕方~夜になると決まったように 38~39℃の発熱を認め、βラクタム系の抗菌薬は無効と判断しました。
年が明け、ANA<40, P-ANCA<10, C-ANCA<10, パルボB19IgM陰性, フェリチン10898ng/ml(<90)という結果が返ってきました。
以上かなり症例提示を端折っていますが、 感染症や悪性腫瘍は、培養や画像検査上(CT、胃カメラ)否定的であり なおかつ抗核抗体などが陰性。 2週以上続く発熱、関節痛、軽度の肝脾腫、咽頭痛やフェリチン著明高値から ASDを疑い、NSAID投与(ロキソニン3T3×)を開始し、現在に至ります。
またそれと関連があるのか不明ですが 入院前後より認知症がすすんでいるのではないかという家族の指摘もあったため、 髄液検査をしたところ無色透明、初圧13cmH2O、細胞数52/3(リンパ球47/好中球5) TP27、Glu74と軽度細胞数の増加がみられ、頭部MRIでは右内包後脚にdiffusionで高 信号域を認め 新鮮脳梗塞も認めました(focal signはなし)。
UpToDateにのっているASDの基準(J Rheumatol 1992;19:424)は満たしています。 ただ皮疹は確かに熱が出たときに紅斑として体幹を中心に広がるのですが 熱がないときでも頚部~前胸部には紅斑がみられ、掻痒を伴う時期もあったというこ とで 皮膚科は蕁麻疹様紅斑と診断しており、いわゆるサーモンピンク疹の典型ではないと いうコメント でしたので、皮疹に関しては?のところがあります。 (私自身アトラスでしかみたことがありませんので判断に苦慮しています)。

ここで質問ですが、
① ASDを診断するにあたり、何をもって確定といえるか?
② 髄液所見ならびに脳梗塞はASDと関連するのか?NSAIDはどのくらいの期間使用するのか?
③ ステロイド導入(もしくは他薬剤)のタイミングは?
④ ASDを治療するに当たり注意する点は?
など教えていただければ幸いです。 臨床情報に不足があるかと思いますので適宜ご指摘してください。
(by M先生)

こんばんは。先生が提示された症例は、 病歴、身体所見また検査所見から典型的なAOSDだと考えます。 除外診断も尽くされているようですし。
AOSDと髄膜炎の合併の報告もあるようです(ロキソニンによる可能性もありますね)。
ロキソニンによる治療効果はいかがでしょうか?
私が気になるのは、認知症の進行です。 AOSDのため?入院による環境の変化?
(by Y先生)

髄液検査をされている点、素晴らしいです。 不明熱の診断には、必須かと思います。
神経感染症を扱う上で、ひとつ大事な点があります。 髄液糖が、74。通常は、正常値です。 しかし、この方は、HbA1c 6.7と糖尿病もしくは耐糖能異常があります。 髄液検査をされた際に、血糖を同時に測定していますでしょうか? 熱があったり、炎症などのストレス下にある状況なので、高血糖が予想されます。 仮に、血糖が200であったとしましょう。髄液糖/血糖の比は、1/3前後になります。 初期から診ていれば、典型的な細菌性髄膜炎は否定できたかと思いますが、抗生剤も 入っており、Partially treated meningitisは否定できません。 経過もあわせると、ウイルス性の脳炎・脳症、真菌性、結核性、癌性髄膜症を思い浮 かべます。 認知症の症状が進んでいるというのも、中枢神経症状であるかもしれません。
髄液クリプトコッカス抗原はどうでしたでしょうか? 診断にいつも苦慮するのですが、結核性髄膜炎もステロイドが入ると、少し改善した ようにみえることがあります。 髄液PCRの感度の問題から、結核性は、最後まで否定しにくいというのも事実です。 MRIで血管が侵されているのも、気になります。脳幹、脳底部をMRIで見直してみてく ださい。
白血球増多、CRP上昇、皮疹などは、髄膜炎のみでこれだけ上昇することは、まれで す。しかし、他の原因でも起こる可能性はあります。 胸水の性状は滲出性?漏出性?肺にも炎症の主座があるかもしれません。
疑問点を少し整理しましょう。 私個人としては、検査所見で注目すべきは、髄液細胞数増多です。 これを切り口に症状などを見直すことが診断の近道かと思います。
膠原病に伴う髄膜炎もしくは、髄膜炎現象もありうるかと思いますが、Adult-onset Still diseaseで、どのくらいの頻度で起こるか私には分かりかねます。 すいません。
(by N先生)

発熱、皮膚症状、高フェリチン血症から成人スティル病(AOSD)は鑑別に上がりま す。胸水貯留もAOSDで起こりえます。但し、発症年齢、AOSDに典型的ではない皮膚症状、認知障害の進行、髄液の pleocytosis、低酸素血症(胸水貯留によるものかもしれませんが)は必ずしもAOSDに典型的ではなく、著しい高フェリチン血症を来たすもう一つの疾患(群)である Hemophagocytic Lymphohistiocytosis、とりわけAsian-variantと言われるIntravascular LymphomaによるLAHSの可能性を疑わせます。
診断はしばしば困難です(小生も先生の提示された臨床経過だけでは次の一手が思 いつきません:十分な量の髄液をCytologyに提出する?)。
その他、N先生がご指摘のような中枢神経病変(感染症など)の可能性はあるかと思います。Milliary tuberculosisによるHemophagocytic syndromeと牽強付会な (?)鑑別も一応挙げておきます。
AOSDは現時点では結局implicit gold standardによる臨床診断で、Yamaguchi criteriaは「実際にはAOSDではない患者さんをAOSDと診断してしまう」Type 1 error の可能性があります。AOSDにおけるIL-18の著増もいわれていますが、cut-off値はまだ定められていないと思います。
(by Rheum-dora)

AOSDの他にはNon-Hodgikin Lymphomaの特殊型IVL(intravascular lymphoma)、あとはお馴染みTB(不明熱で忘れないようにという意味で)を鑑別に入れたいです。
昨年少しだけ類似した症例をたまたま経験しましたので、ご参考になれば幸いです。 70台女性で1ヶ月の不明熱と頭痛、炎症著明で肝機能異常有り、不明熱w/uをTemporal artery biopsy、liver biopsyまで行われ全て陰性。一応biposy negative TAとしてsteroidにて治療開始したが、解熱も一時的で、その後(Nonpruritic or pruritic?) macular rashと関節痛が出現し、skin biopsy(皮疹の有無に関わらず4箇所)施行。一方次第に物忘れがひどくなり、徐々に意識障害も認めてきたため、LP、MRI(1回目は頭痛症状のみのとき­でNegative、2回目)を行い、それぞれpleocytosisおよびwhite matter にhigh intensity T2を認めた。
このケースでは結果的には皮膚生検がIVLの診断に結びつきました。患者さんはCHOP後今も元気にされております。IVLの診断は難しいため、検査のひとつと­してrandom skin biopsyを行うことを勧めている論文 もあり、たとえ皮疹がなくても診断がつく場合もあるそうです。CNS症状は2/3のケースで認められstrokeやdimentiaの症状、encephalo­pathyとしてくる場合などがあるようです。AOSDは除外診断が前提になっていますし、生命予後を考えると鑑別診断にあがってくる疾患の方がCritica­lでしょうから、積極的にとれる組織を探しに行っていただくことになるのかな、と思いました。
(by K先生)

不明熱科?としては、 血球貪食症候群(HPS)の原因疾患の中でも、粟粒結核や悪性リンパ腫の診断には、苦労することがあります。 特に先般、Rheum-dora先生、K先生が述べられているようにIVLの診断は難渋します。 感染症、悪性腫瘍、膠原病の3つは挙がりましたが、もう一つ触れられていない薬剤などはどうでしょうか?気になります。
次の一手は、骨髄穿刺ではないでしょうか? そして、皮膚生検。病院の診療科の問題もあるので、皮膚生検がやりやすい環境であれば、皮膚科医と病理医によく説明した上で、皮膚生検が先でもよいと思います。 その後、機会を見て、髄液の再検も、された方がよいと思います。 自験例でも、2回の骨髄穿刺と1回のジャム生検(骨髄生検)で、やっと診断に至った例があります。 肝生検も検討していました。侵襲の少ない順番と検査前確率を考え、選択されれば良いかと思います。
(by N先生)

どうやらこの症例は、dementiaがキーワードのようですね。 たしかにDementiaにfocusすると、AOSDでは説明がつかないと思います。 ここで一旦、病歴と身体所見に立ち返ってみましょう。 Dementiaについてのもう少し具体的な経過や程度(例えばMMSEやHDS-R)の情報が欲しいです。 また、頭部MRIの右内包後脚の病変で通常起きる症状は左片麻痺と構語障害で、dementiaは起きません。 MRI所見についても詳細が知りたいです。
(by Y先生)

○ 髄液の抗酸菌培養は行っていますが、クリプトコッカス抗原は提出していません。 血糖は130台でしたので、確かに髄液糖は低めかと思います。 髄液に関しては後日フォローする予定にしています。
さてその後の経過ですが、NSAIDを使用しはじめてから 解熱し、酸素化良好、関節痛も改善し、 データー上もWBC 9940、CRP 7.45と改善傾向をみせていました。 また解熱してから認知症(?)のような症状も少し改善しています。 入院時のMMSEは20点前後でした(すいません詳細覚えていませんので後で確認しま す)。また再検してみようと思います。 皮疹は一部色素沈着化していますが、まだ残存しています。
しかし昨日の血液検査にてHb/Hct 9.30/29.90、Plt 10.8万と血球減少がみられまし た(血球貪食症候群でしょうか?)。 原病の悪化か、NSAIDの副作用かわかりませんが、肝機能もAST/ALT 90/88 LDH854と上昇がみられたため、NSAID中止しPSL 40mg/日(0.8mg/BWkg)開始しまし た。 また病勢と関連するのか分かりませんが、フェリチンは38962とさらに上昇していま した。 先生方にご指摘いただいたIVLの可能性もあり骨髄検査をすることにし、皮膚生検も 皮膚科に依頼しました。
現在点滴、酸素などが全てとれ、食事摂取もしており 「先生やっぱり長く入院していないといけないんですか?  夫の世話もしないといけないんですよね」と 入院時と一転して、至極お元気にされております。

○ dementiaに関して 入院後に行ったMMSE17点、現在MMSE24点でした。 現在の意識状態はほぼ健常時と変わらないとご家族が いっておられます。 症状としてはなんとなくぼんやりしている、受け答えに ちぐはぐさがみられるといったような状況でした。 MRIに関しては、放射線科のレポートを引用しますと 「拡散強調画像にて右内包後脚に高信号強度が見られ、 T2強調画像、FLAIR画像でもわずかな腫脹を伴う小信号強度としてとらえられます。 前脈絡叢動脈に比較的新しい虚血梗塞の可能性があります。 脳梁体部後半にも高信号とらえられますが急性期のものとは断定できません」 ということでした。 神経内科Drに診てもらったところ、極軽度の左片麻痺(pure motor)はあり、 画像上、内包膝部にも梗塞がありそうで、そうすると 認知症のように思われた症状(意識障害?)は、 梗塞で説明がつきそうだということでした。
ステロイドに変更後、データー上Hbは横ばい、Plt・肝機能は改善傾向 となっています。 髄液は今週中に再検する予定です。
(by M先生)

2007年1月6日土曜日

最近のNew England Journal of Medicineの話題

 今週のNew England Journal of MedicineのClinical Problem Solvingは、「関節 症状・日光過敏・全身倦怠感」などを訴えて受診された45歳 女性の症例です。 (Free full textです) http://content.nejm.org/cgi/content/full/356/1/68
 最初のパラグラフでLupusを疑いましたが、抗核抗体陰性、それでも "Seronegative Lupus"の診断のもとHCQ(この薬について日本でpracticeしているとありがたみがよくわかりませんが・・・)が開始されてしまいます。
 それを批判する(?)discussantは "The diagnosis of systemic lupus erythematosus requires 4 of 11 clinical and laboratory criteria that this patient has not met. At this point, the working diagnosis should be an undifferentiated connective-tissue disease that responded clinically to hydroxychloroquine." と述べていますが、Lupusの診断の考え方として、それはいかがなものでしょうか?
 一旦HCQで諸症状は改善したのですが、4年後にMassiveな下痢で再受診、蓄便 (MKSAPなどを読んでいると出てきますが、日本のPracticeで見た事ありません)では明らかな脂肪便、そのうち精神症状が出てきて・・・ 読者はそこで今号のNEJMの目次を見直し、編集者のEditorial handlingにニンマリする仕組みになっています。
(by Rheum-dora)

 NEJMといえば12月21日の左腕の筋力低下を来たしたSLEという題名のものもなかなかです。 http://content.nejm.org/cgi/content/extract/355/25/2678
 入院中にMRI簡単に数えただけで8回取ってますし、Brain Biopsyも2回。ステロイ ドパルスのタイミングも冬眠している人が起きてきてひと言言いそうな感じで、感染症とSLE自体の鑑別が問題になりますがやはりCRPははかっていない(別に深い意味はありませんのできつい突っ込みはご勘弁ください)、などアメリカの医療が垣間見れます。
 最終的にはcaspofungin, voriconazole, clindamycin, atrovaquine, meropenem, vancomycin, pyrimethamineにステロイドパルスを加えて終結する症例です。僕は勉強になりました。
(by SLIHAR先生)

2007年1月5日金曜日

腸かんまく?Behcet

〔Case presentation by Rheum-dora〕
腸管Behcetと呼ばれる病態で、典型的には深く掘れた潰瘍が内視鏡的に確認されると思うのですが、過去にBehcet病の患者さんで「腹痛(特にTyphlitis 盲腸炎様)」 +「CTで腸管周囲の脂肪織濃度上昇」+「内視鏡的に所見なし」という症例を2例経験しました。

1例目は40代男性、口内炎+陰部潰瘍+皮膚症状の不全型Behcetの患者さん。
腹痛で何度も緊急受診しており、そのときのCTでは腸間周囲の脂肪織濃度上昇が特にCecum周囲に目立ちます。単純腹部X線写真ではいわゆる「ガスレス」様になること もあり、外科を巻き込んで騒ぎになる〔Guardingもあり、虫垂炎の穿孔と区別困難〕 のですが、ステロイドの一時的増量+抗菌薬投与(Meropenem)で数日の経過で著明 に改善します。腹痛著明な時期には下部消化管内視鏡を施行できていないのですが、 これまで施行した下部消化管内視鏡では特に所見を認めておりません。

2例目は20代女性、口内炎+陰部潰瘍+皮膚症状の不全型Behcetの患者さん。この方も同様の経過で、腹痛による緊急受診を繰り返しておられます。

いずれの症例も、一時的なステロイド増量に非常によく反応するのですが、維持療法が困難で、ステロイドが比較的高用量でもrelapseして緊急受診してこられるように思います。1症例目ではCyclosporin A併用でもステロイド減量に難渋していまし た。無理にsuppressionせずに、「発作のような痛み・不快感を感じたら」内服できるようにプレドニンを処方しておいて、近々の外来を受診してもらう、という方法でもよいのかな、と思いますが、いかがでしょうか。
また、これは「腹腔内に起きたpanniculitis」のような病態なのでしょうか。

(Comment 1 by K先生)
BDのPanniculitis全身のどこへでもおこりますね。
11月にEN、微熱、関節痛のコンサルトでBDだったのですが、periorbital cellulitisではと疑うほど目の周りが腫れた症例を経験しましたが、NSAIDsプラスコルヒチンで良くなりホットしていました。 腸管にも起こるのですね。Crohnと鑑別が非常に難しくASCA抗体が陽性になるBDも1例経験しましたが。

(Comment 2 by SLIHAR先生)
BDですが、レミケードが目だけじゃなくて、CNSにも効くようですから、これからますますステロイドは間欠投与になっていくんだと思います。腸にもきくでしょうし。
http://rheumatology.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/45/3/348
僕も、0.5 mg/kg/day 5日間とかで必要に応じて使っている患者さんもいます。

(Comment 3 by H先生)
僕は短期的なステロイド中等量投与はよい方法だと思いますが、発作が頻回な場合には積極的に免疫抑制剤を使用しています。やはり特殊病型や眼病変の発作の繰り返しは長期的に考えればリスキーですし、ステロイド投与が眼病変にあたえる影響も加味しなければなりませんから。
今後は生物学的製剤の使用によって、本邦におけるBDの治療ストラテジーも大きく変わるのではないかと期待しています。

2007年1月4日木曜日

RA活動性評価(RAPID)

RAPIDは患者さんからの情報(診察室の待ち時間に質問紙を埋めてもらえば良いので診察前にわかる!!)をもとにRAの活動性をみるToolとして有用なもの­ではないかということで私(Rheum-dora註:K先生)がNYUにいるときのメンターの一人Dr. Yasuf Yaziciとバンダービルト大学のDr. Pincusが提唱するものです。私も去年のEULARとACRで研究にくわえていただきました。

具体的には
RAPID3
= Pt global assessment of dz activity in cm(0-10)
+ Pt pain VAS(0-10)
+ mHAQ(通常8項目0 3で10point)
Total 30 pointで評価します。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?db=pubmed&cmd=Retrieve&dopt=AbstractPlus&list_uids=17083765&query_hl=1& amp;itool=pubmed_docsum

(by K先生)

Medscape 骨粗鬆症おすすめスライド

さて、みなさんMedScapeはおつかいとおもいますが、(面倒ですが、登録只です) http://www.medscape.com/ に、Osteoporosisのスライドレクチャーがいくつかあります。
http://www.medscape.com/viewprogram/5010 http://www.medscape.com/viewprogram/5401 http://www.medscape.com/viewprogram/4743
ぐらいがおすすめでしょうか?
ちなみに、レクチャー検索には、searchのところに、 osteoporosis slide と、slideを一緒に入れると細かい記事は省かれて便利です。
(by SLIHAR先生)

追記:
紹介した、
http://www.medscape.com/viewprogram/5401
もう一度見てみましたが、やはりちゃんとまとまっていると感心しました。ORとRRも 間違っていませんし。おすすめです。
(by SLIHAR先生)

RA診療のTrivial Q&A 3

Q:
「定時内服のNSAIDを中止するテクニックは?」
小生が引き継いだ外来では「MTX 4 mg/wk+ボル○レンSR 2Cp分2+プレ○ニン 10 mg/day+ザン○ック(通常量)」のような処方がされている患者さんが複数いて、まずはMTXをdose upし、一応PPIに変更し、プレ○ニンを慎重に減量し・・・と処方を 徐々に変更しているところですが、患者さんの心理的な抵抗もあってボル○レンやロキ○ニンを中止できないことが多いです。これは仕方ないことなのでしょうか?

A1:
NSAIDに関しては、抵抗のある人には次のようにしています。まずはロ○ソ○ン(コ ンビニではありません)を1日3回で使っている人には、30日分の処方箋なら1日3回まで1回1錠で90回分の頓用として処方します。つまり、最初は定期処方と同じ量を書き ます。で、副作用とその限られた作用をきちんと説明して減らしてみてくださいといっておくと、大抵は少しずつ量が減ってきて結局ほとんどいらなくなる人が多いです。結局、NSAIDを毎日飲まなくてはいけない人はDMARD欠乏症のことも多いですの で、NSAIDで症状を抑えているうちにNon-Erosive Eraに時代遅れというのは患者さんも望んでいな いことと思います。
(by SLIHAR先生)

A2:
NSAIDについてはSLIHAR先生と全く同意見です。僕はもっとテキトウな人間なので、「このクスリは、痛くなかったら勝手に減らしたり、止めちゃったりしていいから」と一言言うだけです。本当に痛みが無い人なら、大抵は次の外来で「あ、もうたくさん余ってるんで、いいです」といってくれます。それでも NSAIDを止めない人は、「医者に言うと面倒だから言わないけど、RAが完全には沈静化していないため、本当はかなり痛い」とか、「腰痛がひどいので 服用していたい」とか、大抵何かの理由があると思います。
(by H先生)

RA診療のTrivial Q&A 2

Q:
「指先のMCP関節の腫脹をケナコルト関節注射で『散らす』か」
中~大関節の調子は非常によいにもかかわらず、両側2-3MCP関節の腫脹が残る場 合、ケナコルトの関節注射で「炎症を散らす」ことを時々やっていますが、患者さん によって評判はまちまちです。場合によっては「お試し」と称して複数腫脹している 小関節の1つだけにケナコルトを注射し、次の外来でその他の小関節の腫脹に注射す るかどうかを患者さんに決めてもらったりしていますが、これは結局一時しのぎにす ぎないのでしょうか?やはり注射で「散らす」と同時に(例えば)Methotrexateも dose upする必要があるのでしょうか?
Q補遺:関節注射の日は「お風呂をやめて」もらっていますか?(私は全くナンセン スだと思うのですが・・・)
(by Rheum-dora)

A1:
ケナコルトに関しては、もし今からIntra-articular injectionをはじめようという 先生方がいれば、膝以外には注意が必要です。なれてくればいいのですが、漏れたと きに脂肪組織の萎縮などトラブルの元になります。でも、しっかり関節に入れば一番 長持ちして良く効きます。なれるまで、リンデロンでお茶を濁すことも可能です。 僕は原則、指とか手首には30Gで注射していますのでお風呂はOKと思っています。3 歩歩けばアナはふさがるというのは言い過ぎかもしれませんが・・・
リドカインと1:1希釈するとうちやすいです。
MTXのドースアップが毎回必要かはむずかしいところです。でも、これをすることによって、一気に炎症を下げてMTXの有益性やTNF製剤で維持しやすくするという効果はあると思います。IA単独で治療しているのでなければ、散らすとか一時的というほど自虐的な治療でもないかと思います。
(by SLIHAR先生)

A2:
関節注射については、totalの疾患活動性が十分低下しているにもかかわらず、一過性の単関節炎のためにQOLが低下している症例には、あまり躊躇せずホイホイと関節注射していますが、すぐに再燃してしまう場合や、手指関節のあちこちが腫脹しているような場合には、MTXの増量や生物学的製剤の導入 を積極的に勧めています。
(by H先生)

RA診療のTrivial Q&A 1

Q:
「関節腫脹が目立たず、炎症反応も低値なのに、圧痛関節数・Patient's VASのためにDAS28が高い症例」 例えばTJC 20+SJC 0+ESR 10+VAS 80で DAS28 ESR 5.24といった感じ。
こういった症例でMethotrexateを増量しますか?
(by Rheum-dora)

A1:
http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/abstract/113490201/ABSTRACT
ということで、やはりCRPも関節腫脹もなくても活動性のある人は昔からいるよう で、そこを経験でやっていたのですが、実感をつかむにはMRIやMMP3などの新しい (MMP3は僕にはスゴク新しいです)検査を導入して研修していくことも可能だとおも います。
でも、
http://www3.interscience.wiley.com/cgi-bin/abstract/113383833/ABSTRACT
とは矛盾しますね。K先生おすすめのRAPIDなどは患者さんからの情報だけでの フォローですから、MRI、MMP3の逆を行きますが、これでもRheum-dora先生は正しいことに なります。
(by SLIHAR先生)

A2:
痛みだけを強烈に訴える関節リウマチの患者さんは確かに結構いますよね。
僕はなかば自己流ですが、
1. 肉眼所見に十分反映されず、さらに局所に限定された関節炎にともなう疼痛
2. 関節破壊の結果として生じる力学的な疼痛
3. 心因反応
以上の3種類を考えながら対応する事にしています。
関節腫脹がはっきりしなくても、CRP以外の炎症反応(たとえばα1-グロブリン分画とか、α2-グロブリン分画とか)が微増していて、MTXを増量したら痛みもよくなった、なんていう症例は結構多いように思います。痛み閾値は個々で異なりますから、炎症反応が非常に地味でも強烈に痛みを感じるという のはあり得る事ではないでしょうか。ですので、僕はRheum-dora先生が書いていらっしゃる症例は1. に当てはまるのじゃないかと予想しますし、MTXの増量は関節破壊防止と言う観点から考えても至極真っ当な判断だと思います。
炎症が完全におさまっていても、関節破壊、運動時の疼痛が強い症例なら、2. 関節破壊の結果として生じる力学的な疼痛が多いのでNSAIDを使用してなんとかすることにしています。(欧米ではブプレノルフィンの貼付製剤なんかを使うようですね)僕を含め、内科系のリウマチ専門医は関節X線の評価がおろそかになりやすいので、これは自戒の意味も込めて挙げておきます。
しかし、困るのは関節破壊もない、腫脹もない、炎症もまったくない、でも圧痛は強烈、という3. 心因反応の要素が強い症例ですよね。これには試験的経験的に抗うつ薬を使用してみることにしています。エビデンスも何もないような話ですが、少なくとも 僕はこれでかなりうまくいってます。
(by H先生)