○ 現在ASDではないかと思われる患者さんを担当しています。 症例経験がないので皆様にご意見いただければと思います。
簡単に症例を提示しますと
患者:74歳女性
主訴:発熱、関節痛
現病歴:生来健康。ADL自立。病院通院歴なし(内服もなし)。
2006年の12月初旬より倦怠感、食欲低下、微熱認め、 その後掻痒感を伴う皮疹が出現(詳細不明)し、近医にて抗ヒスタミン薬などを処方 される。
12月中旬より咽頭痛出現、その後発熱(38-39℃)や両膝関節痛認め、 徐々に両下腿浮腫もみられたため某外科病院に膝関節炎ということで入院。 膝関節液の培養は陰性。クラリス→セファメジン→メロペン投与するも熱、炎症反応 あまり改善せず(なぜか)ソルコーテフ500mg投与、一旦解熱するも原因不明という ことで 12/28当院紹介入院となりました。
(年末ぎりぎりで転院されてこられしかもステロイドが投与され ぐちゃぐちゃの状態で送られてきたという感じです・・・。)
当院受診時は、38℃、SpO2 93%(室内気)、sBP140台、HR90bpm・整 頚部・右肩の圧痛、両膝の圧痛・発赤腫脹、両下腿浮腫、頚部から前胸部にかけての 紅斑を認めました。
データーとしては
WBC 27340/ul(Band 7%, Seg 90%)、Hb 12.0 g/dl,Hct 37.30%,Plt 21.6万,
PT-INR 0.97, APTT 23.5, Fib 656 mg/dl, D-dimer 7.2 ug/ml
ESR 97mm/hr, CRP 15.54, AST/ALT 23/16 IU, BUN/Cr 17/0.6mg/dl, TSH 1.15, FT4 1.41, MMP-3 180.6ng/ml, RF 2.2IU/ml, C3 123mg/dl, C4 38mg/dl, CH50 42.8U/ml, HbA1C 6.7 といった状況でした。
レントゲン上 軽度 CP angleはdullになっていました(胸水貯留がCTで確認)。
年末であまり検査もできずとりあえず各種培養採取し、 MEPM投与し経過をみていました。 日中は36~37℃台なのですが、夕方~夜になると決まったように 38~39℃の発熱を認め、βラクタム系の抗菌薬は無効と判断しました。
年が明け、ANA<40, P-ANCA<10, C-ANCA<10, パルボB19IgM陰性, フェリチン10898ng/ml(<90)という結果が返ってきました。
以上かなり症例提示を端折っていますが、 感染症や悪性腫瘍は、培養や画像検査上(CT、胃カメラ)否定的であり なおかつ抗核抗体などが陰性。 2週以上続く発熱、関節痛、軽度の肝脾腫、咽頭痛やフェリチン著明高値から ASDを疑い、NSAID投与(ロキソニン3T3×)を開始し、現在に至ります。
またそれと関連があるのか不明ですが 入院前後より認知症がすすんでいるのではないかという家族の指摘もあったため、 髄液検査をしたところ無色透明、初圧13cmH2O、細胞数52/3(リンパ球47/好中球5) TP27、Glu74と軽度細胞数の増加がみられ、頭部MRIでは右内包後脚にdiffusionで高 信号域を認め 新鮮脳梗塞も認めました(focal signはなし)。
UpToDateにのっているASDの基準(J Rheumatol 1992;19:424)は満たしています。 ただ皮疹は確かに熱が出たときに紅斑として体幹を中心に広がるのですが 熱がないときでも頚部~前胸部には紅斑がみられ、掻痒を伴う時期もあったというこ とで 皮膚科は蕁麻疹様紅斑と診断しており、いわゆるサーモンピンク疹の典型ではないと いうコメント でしたので、皮疹に関しては?のところがあります。 (私自身アトラスでしかみたことがありませんので判断に苦慮しています)。
ここで質問ですが、
① ASDを診断するにあたり、何をもって確定といえるか?
② 髄液所見ならびに脳梗塞はASDと関連するのか?NSAIDはどのくらいの期間使用するのか?
③ ステロイド導入(もしくは他薬剤)のタイミングは?
④ ASDを治療するに当たり注意する点は?
など教えていただければ幸いです。 臨床情報に不足があるかと思いますので適宜ご指摘してください。
(by M先生)
こんばんは。先生が提示された症例は、 病歴、身体所見また検査所見から典型的なAOSDだと考えます。 除外診断も尽くされているようですし。
AOSDと髄膜炎の合併の報告もあるようです(ロキソニンによる可能性もありますね)。
ロキソニンによる治療効果はいかがでしょうか?
私が気になるのは、認知症の進行です。 AOSDのため?入院による環境の変化?
(by Y先生)
髄液検査をされている点、素晴らしいです。 不明熱の診断には、必須かと思います。
神経感染症を扱う上で、ひとつ大事な点があります。 髄液糖が、74。通常は、正常値です。 しかし、この方は、HbA1c 6.7と糖尿病もしくは耐糖能異常があります。 髄液検査をされた際に、血糖を同時に測定していますでしょうか? 熱があったり、炎症などのストレス下にある状況なので、高血糖が予想されます。 仮に、血糖が200であったとしましょう。髄液糖/血糖の比は、1/3前後になります。 初期から診ていれば、典型的な細菌性髄膜炎は否定できたかと思いますが、抗生剤も 入っており、Partially treated meningitisは否定できません。 経過もあわせると、ウイルス性の脳炎・脳症、真菌性、結核性、癌性髄膜症を思い浮 かべます。 認知症の症状が進んでいるというのも、中枢神経症状であるかもしれません。
髄液クリプトコッカス抗原はどうでしたでしょうか? 診断にいつも苦慮するのですが、結核性髄膜炎もステロイドが入ると、少し改善した ようにみえることがあります。 髄液PCRの感度の問題から、結核性は、最後まで否定しにくいというのも事実です。 MRIで血管が侵されているのも、気になります。脳幹、脳底部をMRIで見直してみてく ださい。
白血球増多、CRP上昇、皮疹などは、髄膜炎のみでこれだけ上昇することは、まれで す。しかし、他の原因でも起こる可能性はあります。 胸水の性状は滲出性?漏出性?肺にも炎症の主座があるかもしれません。
疑問点を少し整理しましょう。 私個人としては、検査所見で注目すべきは、髄液細胞数増多です。 これを切り口に症状などを見直すことが診断の近道かと思います。
膠原病に伴う髄膜炎もしくは、髄膜炎現象もありうるかと思いますが、Adult-onset Still diseaseで、どのくらいの頻度で起こるか私には分かりかねます。 すいません。
(by N先生)
発熱、皮膚症状、高フェリチン血症から成人スティル病(AOSD)は鑑別に上がりま す。胸水貯留もAOSDで起こりえます。但し、発症年齢、AOSDに典型的ではない皮膚症状、認知障害の進行、髄液の pleocytosis、低酸素血症(胸水貯留によるものかもしれませんが)は必ずしもAOSDに典型的ではなく、著しい高フェリチン血症を来たすもう一つの疾患(群)である Hemophagocytic Lymphohistiocytosis、とりわけAsian-variantと言われるIntravascular LymphomaによるLAHSの可能性を疑わせます。
診断はしばしば困難です(小生も先生の提示された臨床経過だけでは次の一手が思 いつきません:十分な量の髄液をCytologyに提出する?)。
その他、N先生がご指摘のような中枢神経病変(感染症など)の可能性はあるかと思います。Milliary tuberculosisによるHemophagocytic syndromeと牽強付会な (?)鑑別も一応挙げておきます。
AOSDは現時点では結局implicit gold standardによる臨床診断で、Yamaguchi criteriaは「実際にはAOSDではない患者さんをAOSDと診断してしまう」Type 1 error の可能性があります。AOSDにおけるIL-18の著増もいわれていますが、cut-off値はまだ定められていないと思います。
(by Rheum-dora)
AOSDの他にはNon-Hodgikin Lymphomaの特殊型IVL(intravascular lymphoma)、あとはお馴染みTB(不明熱で忘れないようにという意味で)を鑑別に入れたいです。
昨年少しだけ類似した症例をたまたま経験しましたので、ご参考になれば幸いです。 70台女性で1ヶ月の不明熱と頭痛、炎症著明で肝機能異常有り、不明熱w/uをTemporal artery biopsy、liver biopsyまで行われ全て陰性。一応biposy negative TAとしてsteroidにて治療開始したが、解熱も一時的で、その後(Nonpruritic or pruritic?) macular rashと関節痛が出現し、skin biopsy(皮疹の有無に関わらず4箇所)施行。一方次第に物忘れがひどくなり、徐々に意識障害も認めてきたため、LP、MRI(1回目は頭痛症状のみのときでNegative、2回目)を行い、それぞれpleocytosisおよびwhite matter にhigh intensity T2を認めた。
このケースでは結果的には皮膚生検がIVLの診断に結びつきました。患者さんはCHOP後今も元気にされております。IVLの診断は難しいため、検査のひとつとしてrandom skin biopsyを行うことを勧めている論文 もあり、たとえ皮疹がなくても診断がつく場合もあるそうです。CNS症状は2/3のケースで認められstrokeやdimentiaの症状、encephalopathyとしてくる場合などがあるようです。AOSDは除外診断が前提になっていますし、生命予後を考えると鑑別診断にあがってくる疾患の方がCriticalでしょうから、積極的にとれる組織を探しに行っていただくことになるのかな、と思いました。
(by K先生)
不明熱科?としては、 血球貪食症候群(HPS)の原因疾患の中でも、粟粒結核や悪性リンパ腫の診断には、苦労することがあります。 特に先般、Rheum-dora先生、K先生が述べられているようにIVLの診断は難渋します。 感染症、悪性腫瘍、膠原病の3つは挙がりましたが、もう一つ触れられていない薬剤などはどうでしょうか?気になります。
次の一手は、骨髄穿刺ではないでしょうか? そして、皮膚生検。病院の診療科の問題もあるので、皮膚生検がやりやすい環境であれば、皮膚科医と病理医によく説明した上で、皮膚生検が先でもよいと思います。 その後、機会を見て、髄液の再検も、された方がよいと思います。 自験例でも、2回の骨髄穿刺と1回のジャム生検(骨髄生検)で、やっと診断に至った例があります。 肝生検も検討していました。侵襲の少ない順番と検査前確率を考え、選択されれば良いかと思います。
(by N先生)
どうやらこの症例は、dementiaがキーワードのようですね。 たしかにDementiaにfocusすると、AOSDでは説明がつかないと思います。 ここで一旦、病歴と身体所見に立ち返ってみましょう。 Dementiaについてのもう少し具体的な経過や程度(例えばMMSEやHDS-R)の情報が欲しいです。 また、頭部MRIの右内包後脚の病変で通常起きる症状は左片麻痺と構語障害で、dementiaは起きません。 MRI所見についても詳細が知りたいです。
(by Y先生)
○ 髄液の抗酸菌培養は行っていますが、クリプトコッカス抗原は提出していません。 血糖は130台でしたので、確かに髄液糖は低めかと思います。 髄液に関しては後日フォローする予定にしています。
さてその後の経過ですが、NSAIDを使用しはじめてから 解熱し、酸素化良好、関節痛も改善し、 データー上もWBC 9940、CRP 7.45と改善傾向をみせていました。 また解熱してから認知症(?)のような症状も少し改善しています。 入院時のMMSEは20点前後でした(すいません詳細覚えていませんので後で確認しま す)。また再検してみようと思います。 皮疹は一部色素沈着化していますが、まだ残存しています。
しかし昨日の血液検査にてHb/Hct 9.30/29.90、Plt 10.8万と血球減少がみられまし た(血球貪食症候群でしょうか?)。 原病の悪化か、NSAIDの副作用かわかりませんが、肝機能もAST/ALT 90/88 LDH854と上昇がみられたため、NSAID中止しPSL 40mg/日(0.8mg/BWkg)開始しまし た。 また病勢と関連するのか分かりませんが、フェリチンは38962とさらに上昇していま した。 先生方にご指摘いただいたIVLの可能性もあり骨髄検査をすることにし、皮膚生検も 皮膚科に依頼しました。
現在点滴、酸素などが全てとれ、食事摂取もしており 「先生やっぱり長く入院していないといけないんですか? 夫の世話もしないといけないんですよね」と 入院時と一転して、至極お元気にされております。
○ dementiaに関して 入院後に行ったMMSE17点、現在MMSE24点でした。 現在の意識状態はほぼ健常時と変わらないとご家族が いっておられます。 症状としてはなんとなくぼんやりしている、受け答えに ちぐはぐさがみられるといったような状況でした。 MRIに関しては、放射線科のレポートを引用しますと 「拡散強調画像にて右内包後脚に高信号強度が見られ、 T2強調画像、FLAIR画像でもわずかな腫脹を伴う小信号強度としてとらえられます。 前脈絡叢動脈に比較的新しい虚血梗塞の可能性があります。 脳梁体部後半にも高信号とらえられますが急性期のものとは断定できません」 ということでした。 神経内科Drに診てもらったところ、極軽度の左片麻痺(pure motor)はあり、 画像上、内包膝部にも梗塞がありそうで、そうすると 認知症のように思われた症状(意識障害?)は、 梗塞で説明がつきそうだということでした。
ステロイドに変更後、データー上Hbは横ばい、Plt・肝機能は改善傾向 となっています。 髄液は今週中に再検する予定です。
(by M先生)
2007年1月20日土曜日
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